2008/06/24 (Tue) 06:30
宇宙と地球とSFと

東北大学機械系のウェブサイト「瀬名秀明がゆく!」で、スプライト観測衛星を大きく取り上げました。いまスプライトがマイブーム(^^)。
宇宙開発というと、人類が宇宙へ出ていく本能だ、みたいに語られることも多いのですが、宇宙から地球の環境を見るこういった研究もあるのです。実はそういうことってあまり知られていないので、宇宙開発というと環境破壊の最たるものと誤解している人もいるのですね。スプライト観測衛星の動向は、今後も随時取材・報告していきます。
瀬名NEWSより。スプライト観測衛星についてはこちら参照)


 えっとこれは、野尻抱介氏の短編「大風呂敷と蜘蛛の糸」(『沈黙のフライバイ』(ハヤカワ文庫JA)所収)でスプライト現象が取り上げられているのを知っていて、書いたのだろうか。言うまでもないが野尻氏は「宇宙を目指すハードSF」派の有力者。
沈黙のフライバイ (ハヤカワ文庫 JA ノ 3-9)沈黙のフライバイ (ハヤカワ文庫 JA ノ 3-9)
(2007/02)
野尻 抱介

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 瀬名秀明氏の一部SF関係者にたいしたこの種の「当てこすり」って、ちょっとどんなもんかなあ、と思ってしまう。
 一部に誤解があるようだが、日本でも欧米でも科学重視の「ハードSF」が天下を取ったことなど一度もない。所詮「文章芸術」であるかぎり、その扱いに長けた「文学派」にアドバンテージがあるのは自明だし、底辺の広がりならスペースオペラとかの「エンターテインメント派」にかなうはずもない。

 それはともかくとして。
 最近野尻ボードを読んでいると、野尻氏と松浦晋也氏や野田篤司氏との間に、微妙な距離感が出ているようであります。それとも、初音ミクとニコニコ動画に興味が行っているだけか?

 わたしは宇宙開発推進派だが、いつまでも「夢」ばかりじゃあねえ、と思ってしまう。ISSにしろ、莫大な予算に見合う効果が得られるかは疑問。「宇宙ラーメン」とか食ってるんだったら、無人探査機を月や火星に飛ばした方がよほど有意義ですよ。 一応月や火星を目指す構想はあるものの、具体的にいつになるかは霧の中。ISSはその「つなぎ」にしては金がかかりすぎる。

 もはや宇宙空間は「最後のフロンティア」から、地球を見下ろして調査するための「高い展望台」になってしまったと思う。地球に背を向けて宇宙を目指そう、なんてのは今や「危険思想」。しかしその「危険思想」を捨て去った世界は味気のないものだろう。

2008/06/23 (Mon) 04:42
SFと「相対主義」とその落とし穴と

大野の日常より「こういうの、一番嫌い」。そのはてなブックマークのコメントがおもしろい。

このエントリについてのネガティブ反応は「差別主義者を差別するのも、また差別」というブックマークのコメントに集約されるだろうね。それは所謂「相対主義の罠」。思考実験を働かせるのと、それを現実の世界で展開するのは別の話。「価値の相対化」と称して、自分をメタな立場に押し上げて、森羅万象「分かったふり」をする。所謂「中2病」という立場とは区別しておきたい。
今の世の中、「きれい事」が嫌いなひとが多いんでしょう。それは分からなくもないが、「世の中、きれい事だけじゃない。でも、きれい事の無くなった世の中は恐ろしい」とでも言うか。

こんな意見もあるのだが、たしか、筒井康隆はエッセイとかで「常識が判らない人間に常識を壊すことなど出来ない」みたいなことを言っていると記憶している(曖昧ですいません)。「選ばれた」ひとがクローズドなサークルで言ってるのを、上っ面だけ真似して正当化するのも、また愚行。

それから、こういった反応を見るたび、「本音主義」の落とし穴を感じる。
世の中に「本音」と称して流通している言説のかなりの部分は「本音を装った暴論、露悪的な感情論」にしか過ぎないのではないか。攻撃的ながらその実、仲間内に「受け」を取るための言説。
仮にそうだとしたら。
そんな言辞を弄んで、あるいは相互にぶつけ合っていたら、誰も望んでいない不幸な結果にならないだろうか。たとえるなら、プロレスのつもりで始めたら終いには殺し合いになっていた、とか。

ただしわたしも、「人間である以上、差別感情は絶対に無くならない」と言ってしまう気持ちは分からなくはない。
以前、「人類から欲望や競争心をなくす方法が広まって、世界にユートピアが訪れる」という小説を読んだとき、「そんなもん実現したとしたら、ひたすらおぞましい逆ユートピアだろうが!」とものすごく不快に思ってしまったことを、ここに告白しておく。
所詮わたしも、「自由な思考」と称して「快楽原則(自分にとって面白いの、かわいいの、気持ちいいのが正義)」を墨守したいSF者なのかねえ。

2008/06/06 (Fri) 20:35
野田大元帥逝く

野田昌宏氏が亡くなった。ここ何年かは体調がよくなかったと側聞している。日本テレワークの一大事にも表に出ることはなく、昨年開催されたワールドコンにも欠席されたと聞いて、心配していたのだが。




<訃報>野田昌宏さん74歳 「スターウォーズ」を翻訳、「ポンキッキ」など人気番組制作も


 「スターウォーズ」など海外SF小説の翻訳家で、「ひらけ!ポンキッキ」などを手がけた制作会社「日本テレワーク」元社長の野田昌宏(のだ・まさひろ<本名・宏一郎=こういちろう>)さんが6日、心不全のため死去した。74歳。葬儀は9日午後0時半、東京都文京区関口3の16の15 東京カテドラル聖マリア大聖堂。喪主は弟玲二郎(れいじろう)さん。

 福岡県出身。学習院大卒業後フジテレビに入社。日本テレワークを設立し、「ひらけ!ポンキッキ」や「料理の鉄人」、「クイズ・ミリオネア」などを手がけた。また、海外SF小説の翻訳家として、「スターウォーズ」や「キャプテン・フューチャー」シリーズなどを翻訳、日本のSFファンの代表的存在として「宇宙大元帥」のニックネームで親しまれたほか、作家としても活躍した。ガチャピンのモデルといわれる。

毎日新聞より



幼少の頃『ひらけ! ポンキッキ』を欠かさず見ていたわたしは、氏に30年以上お世話になっていたことになる。
 著作で一番印象深いのは『スペース・オペラの書き方』(ハヤカワ文庫JA)。

スペース・オペラの書き方―宇宙SF冒険大活劇への試み (ハヤカワ文庫JA)スペース・オペラの書き方―宇宙SF冒険大活劇への試み (ハヤカワ文庫JA)
(1994/10)
野田 昌宏

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この本には『水滸伝に学ぶ』という節があって、原典にふれる前に是非とも目を通しておくといい解説書としてあげられているのが、高島俊男『水滸伝の世界』。
「この著者である高島さんという岡山大学の先生はスペース・オペラの面白さが判る人だと踏んだわけである……。(文庫版P127」
続いて『中国の大盗賊』(講談社現代新書)など高島氏の著作がいくつか紹介されている。人気エッセイ『お言葉ですが……』(文藝春秋)や「名著」の誉れ高い『漢字と日本人』(文春新書)などで評価を高めるよりも前のこと。野田氏の慧眼には唸るほかない。


謹んで哀悼の意を表します。

テーマ : SF小説 - ジャンル : 本・雑誌

2008/04/05 (Sat) 22:27
新井素子が愛された理由

グリーン・レクイエム/緑幻想 (創元SF文庫 (SFあ1-1))グリーン・レクイエム/緑幻想 (創元SF文庫 (SFあ1-1))
(2007/11)
新井 素子

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 新井素子『グリーン・レクイエム/緑幻想』(創元SF文庫)を読む。
 星雲賞受賞作とその続編が合本になって復刊。思い出せば『緑幻想』は90年の夏、九州に行ったときに夜行【ムーンライト九州】の車内で読んだ。そのせいで、屋久島まで足を伸ばしたくなってしまった。日程やらお金やらの(国内の離島に行くのは、下手な海外旅行よりもお金がかかる)都合で断念し、南九州をうろついて我慢したのだった。宿はまだ急行だった【かいもん】【日南】で……。

 後書きを読んで知ったが、新井素子ももう、作家生活30年なのか……30年といえば、当時の新卒社員が、ぼちぼち第二の人生を考えようかという頃合いだ。「教師生活25年」より長いぞ(笑)。「眼鏡っ子の文学少女」というステロタイプを作ったのも、彼女かも知れない。
 解説では『グリーン・レクイエム』が映画化されていたことには触れていない。少女を撮るのに定評があった監督が、少女が好きすぎて後ろに手が回ってしまったせいだろうか……(笑)。

 前エントリと関連して、ついつい本書と『パラサイト・イヴ』とを比較してしまった。
 ひょっとしたら、瀬名秀明氏はこんな感想を抱くかも知れない。
「この作品のエイリアンや植物は『パラサイト・イヴ』のミトコンドリア以上に擬人化されているじゃないか。それに、植物エイリアンが整形で人間そっくりの姿になるなんて、まるでリアリティがない。でも彼女は星雲賞でオレは『SFじゃない』。なんでだ?」と。まああくまでわたしの脳内「仮想瀬名秀明」ですが(後者は絶対突っ込みが入っていると思う。彼女以外なら)。
「どうして新井素子が許されて、瀬名秀明では許されないのか?」というのはなかなか答え難い問いですが、それは素子姫(当時の呼称)が80年代のSF界に占めていたポジションを理解しなければならないかも知れない……。
(あ、わたし自身は『緑幻想』は『パラサイト・イヴ』よりSFだと思います。理由はここでは省きますが)

 
 80年代の一頃、新井素子がSF界で「特権的」な地位を得ていたのは何故か。まず挙げられるのは、新井素子が日本SFの「正統」に属していたことだ。作品の傾向ではなく、デビューの経緯や人脈において。
 彼女のデビューは「奇想天外」誌が開催したコンテストで佳作入選(同期の佳作に山本弘がいる)したことによる。当時「ハヤカワSFコンテスト」は中絶していたので(二年後に再開。出身者は野阿梓と神林長平)、久しぶりに出現した「プロパーSFのコンテスト出身作家」ということになる。SF界の第一世代は大抵「ハヤカワSFコンテスト」か、同人誌「宇宙塵」の出身だった。 デビューに当たって、コンテストで選考委員であった星新一の熱烈なプッシュがあったのも見逃せない。新井素子の父親と星新一は東大で同級生だった。「ミスターSF」の娘的な存在、だったわけだ。
(追記:新井素子は昏睡状態の星氏に、家族以外で面会を許されていた数少ない人物。最近では、星新一のショートショート集『ほしのはじまり』(角川書店)を編纂している)
ほしのはじまり―決定版星新一ショートショートほしのはじまり―決定版星新一ショートショート
(2007/12)
星 新一

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 日本のSF界で「SFかどうか」ってそんな「出自」「人間関係」の問題も大きいんだよね。まあこんなのは昔の話で、SFコンテストが休止した90年代以降、その構造は崩れてしまって、今はもうそんなものはない。多分。
 つぎに、新井作品の本質的なトラディショナルさ。彼女の文体は「ライトノベルのルーツ」と呼ばれているのだが、その印象とは裏腹に、ずいぶんと「古風」な単語や言い回しを多用している。「莫迦」という表記もそうだが、『星へ行く船』のあとがきにも「恥かきっ子」とある。当時でさえ、コバルト文庫の読者にそんなボキャブラリーはなかったぞ(笑)。
 そして彼女自身も、本質的にはコンサバティブな価値観の持ち主であるようだ。この本を読んでも感じるのは、「男と女は結婚して、子供を作るのが当然だ。そして男は『男らしく』女性を守るのがよい」というコンサバティブな男女感である。
 たとえば、『緑幻想』にこんな一節がある。

「あの、ね、信彦さん……。最終的に、あなたは、人間の、それも健やかで、優しい女の人を、お嫁さんにするべきなのよ(P401)

 彼女自身の生き方もそれにこだわっている節が伺われる。結婚したのは25歳のとき。当時は「結婚適齢期」という言葉が生きていて、女性は20台半ばまでには過半数が結婚するものという認識があったが、今の感覚なら「ちょっと早いんじゃないか」と思ってしまわなくもない。その後の「不妊」へのこだわりも然り。今では子供のいない(あえて作らない)夫婦などざらに見られるが、彼女自身はそういう生き方を望んでいなかったのだろう。
 そう、SF界のとっての彼女はあくまで「可愛いお嬢さん」。理論武装して男性集団に対等に渡り合おうとはしない。「女史」とかいう言葉が似合う存在ではない。おまけに星新一のSF界での「嫡子」でもある。だから大半が男性のSFファンにはある種「安心」していられる存在だったのだ。

 とまあ、フェミニズム的(?)な読み取りをしてみましたが、でも個人と集団の関係には、「人柄」とかいった計量不能の要素も大きいです。それを考えれば、あんまり当てにはならない考察でした。それに「当時のベストセラー作家だったから、ちやほやされてたんじゃないか」と言われれば、身も蓋もないしね。
 そういえば、誰だったか。「『男に都合のいい女しか認めない』という点において、オヤジとオタクは同類だ」と言ったのは。

2008/03/19 (Wed) 22:54
アーサー・C・クラーク死去

「2001年宇宙の旅」作者、スリランカで死去
3月19日8時36分配信 ロイター


 [コロンボ 19日 ロイター] 小説「2001年宇宙の旅」で知られる英国人サイエンスフィクション(SF)作家アーサー・C・クラークさんが、スリランカで死去した。90歳だった。クラークさんの秘書が19日明らかにした。
 秘書によると、死因は心肺機能の不全。1917年に英国で生まれたクラークさんは、70年近くにわたるキャリアの中で80冊以上の著作と多くの短編小説や記事を執筆。1940年代には、2000年までに人類が月に到達すると予想していた。
 クラークさんは昨年12月、90歳の誕生日に友人向けの別れのメッセージを録音。その中で、生きているうちに地球外生命体が存在する証拠を見たかったと述べていた。
ロイターより)





幼年期の終り (ハヤカワ文庫 SF (341))幼年期の終り (ハヤカワ文庫 SF (341))
(1979/04)
福島 正実、アーサー・C・クラーク 他


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楽園の泉 (ハヤカワ文庫SF)楽園の泉 (ハヤカワ文庫SF)
(2006/01)
アーサー・C. クラーク

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宇宙のランデヴー (ハヤカワ文庫 SF (629))宇宙のランデヴー (ハヤカワ文庫 SF (629))
(1985/09)
南山 宏、アーサー・C・クラーク 他

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都市と星都市と星
(1977/12)
アーサー C.クラーク

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謹んで哀悼の意を表します。

追記:池澤春菜さんの日記

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