昨年末のこと。
夕方の東京メトロ有楽町線、和光市行き。満員電車で隣り合ったOLは、カバーの掛かった本を一心に読んでいた。
ちらちら眼に入ってくる活字をさりげなく拾い読みすると「オーヴァーマインド」という単語が見えた。この本はどうも『幼年期の終り』のようだ。車内でSFを読んでいるひとに出会うと、なにやら嬉しくなってしまう。OLだったら、なおさらだ。
それにしては、見え隠れする巻末の近刊案内はスタンダールの『赤と黒』なのである。いくらなんでも青背では出ていないだろう。本文中の活字の組み方にも違和感を感じる。創元SF文庫版(タイトルは『地球幼年期の終わり』)かな、とも思うも、アレはこんなに厚い本じゃなかったはずだ。とつらつら考えていると、ふと思い至る。『カラマーゾフの兄弟』なんかを出して話題になった光文社の古典新訳文庫じゃないか。
などといろいろ考えていたら、そのOLはハンドバックからハンカチを取り出し、鼻をぐすんぐすんとやりだした。泣いているのか……あのラストに。『幼年期の終り』に涙するOL。印象的な光景を見た。もう一度車内で出会いたいものだ。
池袋で降り、ジュンク堂へ行った。古典新訳文庫の新刊に、『幼年期の終わり』はたしかに並んでいた。帯には「SFを超えた哲学小説」とか書いてあって、この辺のセンスは昔から変わらないなあ。
序文を立ち読みしてみると、第1章を89年に書き直した改訂版だという。
タイトル表記は『幼年期の終わり』。青背は『幼年期の終り』創元の『地球幼年期の終わり』に加えて、この小説は3種類の邦題を持つことになったのか。
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